ロンドンカレー事情

タマリンド【Tamarind】ベジ・ハラル表記は無ければダメ?有名店のスキャンダル

https://whomefuwaku.com/curry

「インド料理初のミシュランスター獲得レストラン」としてイギリス国内外で有名なこちらのお店。

2018年に8か月間もの長期間休業していましたが、同年12月にリニューアルオープン。

雰囲気もお料理も新しくなっています。

暫く星を落としているこちらのお店ですが、調べるにつけて、裏でなにやら問題があったようで気になっていました。

お料理のレビューは次回にまわし、今回はモダンインディアンの名店タマリンドについて、スキャンダルも含めてまとめてみました。

実際に行ってみるとお店もお料理もとっても素敵なんです・・・。

レストランレビューは、こちらに別記事でまとめています。

歴代シェフは大物揃い

このレストラン業界の危機的な状況にあっても勢いのあるインド料理

閉業する店も多い中、ロンドンのインド料理レストランはどんどん数が増えています

その中でも、タマリンドは「モダンインディアン」を語る上で欠かせないお店

2001年に星を獲って以来の歴代シェフたるや、モダンインディアンの大物揃いです。

アトゥル・コッチャー

「インド料理初のミシュランスター」を獲得した当時のエグゼクティブ・シェフ、アトゥル・コッチャーさんは、インド料理をファインダイニングに洗練させた先駆者的なシェフ。

彼は2002年に独立し、ベナレスを設立(宗教上のスキャンダルがあり、現在はベナレスを退きましたが、カニシュカを初めイギリス国内外にレストランを展開しています)。

アルフレッド・プラシャード

アトゥルさんが去ったタマリンドで、引き続き星をキープしたのは、スーシェフとしてアトゥルさんの下にいたアルフレッド・プラシャードさん。

イギリス系インド人の母と、タミルブラフマン(タミル語を話すヒンズー教最高位カースト)の父を持ち、若干29歳、タマリンドにてインド人として最も若くして星を獲得し、12年間維持します

2015年に自身の新たなプロジェクトのために退き、現在はニューデリーのオベロイホテルを初め、イギリス、アイルランド、カタールなどにレストランを展開。

ピーター・ジョセフ

チェンナイ出身のピーター・ジョセフさんは2006年にタマリンドに加わり、2012年からヘッドシェフとして星の維持に貢献。

2018年にチェルシーにミシュランスターシェフとしてカハニ【Kahani】を設立して独立。

カルネシュ・カナ

そして2022年現在、タマリンドをエグゼクティブシェフとして仕切るのは既に他店アマヤ【Amaya】で1つ星を獲得しているカルネシュ・カナさん。

デリー出身の彼は、インドのタージホテル系列のホテルマネジメント学校で研修生に選ばれ、ロンドンでの研修中は名立たる一流ホテル、ドーチェスター(The Dorchester)、リッツ(The Ritz)、フォーシーズンズ(The Four Season's)、クラリッジズ(Claridge's)でも働いたのだそう。

デイビッド・ベッカムや、シャーリーズ・セロン・・・各界のセレブ達にもサーブしてきた有名シェフ。

料理の腕も経験も申し分ない才能有るシェフに違いないのだけれど・・・。

リニューアル後に何が?

カルネシュさんの名前で検索すると、華やかなシェフ経歴と合わせて出てくる不穏な記事や書き込み・・・

ゴシップ満載のタブロイド紙なんですが・・・。ミラーでもデイリーメールでも報じられています。

超有名店のスキャンダル?

どうやら、系列のタマリンドキッチンで提供する料理にクノールのチキンの固形ブイヨンを使った模様・・・。

当時のアシスタントマネージャーから指摘され「ゲストは知る必要ない・・・」と握りつぶし、彼を不当に解雇したことで訴えられ、賠償金(1か月分のお給料£2500のみ)を支払ったようです。

これ、実は味の問題だけではないんですよね・・・。

日本人にとっては、「えー!レストランなのにクノール使ってるなんてガッカリ!品質としてどうなの?」という程度問題かもしれませんが、インド人は宗教的な理由でベジタリアンも多いため、事は深刻。

更に、使用したクノールの固形ブイヨンはハラル認証された物でなかったらしく、イスラム教徒の反感も買います。

ハラル(ハラール)とは?

イスラム教の教義に則って、ハラル(合法)とされた食べ物のこと。食品衛生とイスラム教の専門家によるハラル認証機関が認めた食品には、ハラル性が保証され、ハラルマークが与えられます。

3つの論点

この問題は裁判で賠償金を払ってお終いというものではないんですよね・・・。

裁判があったことはあったのですが、争点は「ベジタリアンメニューにチキンの固形ブイヨンを使ったか」ではなく、「従業員を不当に解雇したのか」というところ。

実際にはメニューに動物由来の原料を使用 / ハラル認証されていない原料を使用している旨の記載が無かったことが論争を呼んでいるのですが、レストランに表示の義務・法律などがあるわけではありません

イギリスは多様性に富み他宗教にも寛容な国ではあるけれど、さすがに他国の宗教に関する法律やイスラム法は適用されませんよね・・・。

法を犯したかどうかではなく、倫理的な問題がスキャンダルになっています。

この問題の論点は、実は3つ

  1. レストランなのに手間暇コストかけずに市販の固形ブイヨンを使う品質的な問題
  2. ベジタリアンやイスラム教徒に動物由来/ハラル認証のない食材を知らせずに提供した倫理的な問題
  3. 指摘した従業員を不当に解雇した法律的な問題
はちょっとだけ旨味を出したい時とか、ヨーロッパ系料理でもメニューが多い所なんかは地味にやってるお店も多いんじゃないかなぁ・・・。

ちゃんとしたシェフの高級店ではやってないと信じたいですけどね。

「ゲストは知る必要が無い・・・」のかもしれない。

③は判決も出て賠償金も払い解決済み、しかし、②に関してはうやむやな感じに・・・?

でも信心深い人にとっては②が一番許せないですよね?

せめてもベジタブルブイヨンとか・・・クノールのハラル版だってお店で売ってるのに・・・。

そもそもハラルレストランではない

カルネシュさんやオーナー側の言い分としては、元々「ベジタリアンメニュー」や「ハラルレストラン」をアピールしたことは今までも無いしこれからもそうすることはないだろうということ。

確かに、今現在のお店のホームページやメニューを見ても、ベジタリアンメニュー記載やハラル認証の文字などは見当たりません。お料理の名前の下に大まかに食材名が書いてあるだけです・・・。

むしろ良く見ると、下の方に「強度のアレルギーやdietary requirement (特別なリクエスト)がある場合は、オーダーする前に申告してください。」と書いてあります。

確かにオーダーの時、ウェイターさんから食品アレルギーや食べられないものは無いかという質問もしっかりありました。

・・・ベジタリアン対応・ハラル対応かの記載がメニューに無いことは、不親切ではあるけれど、嘘をついたという訳ではないですよね。

日本の飲食店であれば、そこまで配慮がある所の方が珍しいですよね。

ただし、ここはインド系住民やムスリム系住民も多いロンドン

そして提供されるのはモダンとは言えあくまでインド料理

ヨーロッパ系料理のレストランなら、ベジタリアン・ハラル記載が無ければお客さん側で申告・相談もするけれど、インド人シェフのインド料理ならベジタリアンメニューがあって当たり前という思い込みもありますよね。

デリー出身のインド人シェフなのであれば、そういった背景も熟知していたはず・・・。

タブロイド紙、Daily Mailによると、レストランのウェイターでさえ、チキンブイヨンの使用を知らなかったとのこと・・・。

そうなると、お客さん側からベジ・ハラル希望の申告があっても対応できるのかどうか・・・。

そして、後にカルネシュさん自身もチキンブイヨンの使用を認めているようなのですが、タマリンドではなく、ソーホーにあるカジュアルな姉妹店タマリンドキッチンのみだったとのこと。

いやいや、カジュアルな店だったとしてもベジタリアン客にチキンブイヨンはダメでしょう!

コロナ禍で休業せざるを得なくなったり、ここ数年は全ての飲食店にとって大変な時期でしたが、そうこうしているうちにうやむやになってしまった?

現在は何事も無かったかのように通常営業しています。

レストランに何を求めるか

宗教を尊重しなかった結果はいかに・・・?

結局のところ、タマリンドにしても、タマリンドキッチンにしても、宗教的・倫理的な問題で信用を無くしてしまったところは大きいと思います。

問題があったのはソーホーにあるカジュアルな「タマリンドキッチン」・・・。

しかし、メイフェアの「タマリンド」と同じブロックにサウジアラビア大使館、その先にはカタール大使館もあるのですが、平日ランチで訪れた際に店内を見渡すと、西洋人と東アジア人ばかりでした。

ハラルレストランではないと断言しましたからね・・・。

店内は賑わっていましたが、中東系はおらずインド人らしきカップルが1組いただけ。

たまたまかもしれません。そしてもちろん、スキャンダルなど知らずに入る人もいると思います。でもロンドンの他のインド料理の有名店ではたいてい南アジア系のビジネスマンを含む何組かビジネスランチをしている印象でした。

最近ではロンドンと言えばインド料理というイメージも定着し、海外から来た顧客との商談やミーティングなどにも使われる高級インド料理レストラン

大切な接待やミーティングで宗教的な食事ルールが尊重されないなんて事があれば大問題

タマリンドのあるメイフェアエリアは高級インド料理激戦区なので、他に選択肢はたくさんあります。

他のメイフェアの星付きインド料理レストランを見ると、"チキンはハラル、ラムやビーフはハラルではありません”などHPに記載がありますね・・・。

でも私は好きです!

ただ正直に言うと、今回実際に行ってみて、私はとても気に入りました。

宗教的なトラブルが起こったにも関わらず、カルネシュさん続投で営業しているのは、オーナー・マネジメント側がカルネシュさんの料理に惚れ込んでいるからなのかなぁ・・・と感じました。

お店のリノベーションに数億円かかったそうなのですが、お店のインテリアや雰囲気がお料理とピッタリマッチしていました。

レストランに何を求めるかは人によると思います。

お料理の味、独創性、技術、レストランの雰囲気、行き届いたサービス・・・。

タマリンドでの食事は、どれを取ってもとても満足でした。

星ついてない割にはちょっと高いけど。

ムスリムでもヒンディーでもなく、市販のブイヨンが料理に使われていると利き分けられる味覚の持ち主でもない私は・・・

まぁ、知りたくは無いけど、美味しいなら市販のブイヨン使っていても特に問題なくない?
という感想。

実際は「タマリンド」ではそもそも市販のチキンブイヨンは使っていなかったとのこと。

イメージや信用ってなかなか取り戻すのは難しいですよね…。

世界的にも有名なお店なので、ムスリムやベジタリアンではない海外の観光客(日本人も含め)、キリスト教や無宗教のイギリス人などにとっては、普通にとても楽しめるレストランなのではないかと思います。

どんなお料理が食べられるのかは、また次回!

 

 

 

 

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