インド料理はイギリスにおいてどんどん進化しています。
今から20年ほど前に、タマリンド【Tamarind】でインド料理が初めてミシュランスターを獲得。
更にシナモンクラブ【Cinnamon Club】など、フレンチの調理法などを駆使したモダンインディアンが人気となり、洗練されたファインダイニングとしてのインド料理がロンドンでしっかり地位を築きます。
そして10年後の2010年、コベントガーデンに現れたのが今回のお店、ディシューム【Dishoom】。
その後のイギリスのインド料理の流れを確実に変えたこのお店。
昔はちょっとオジサンっぽいイメージだったインド料理ですが、オシャレやトレンドに敏感な若者が並んでまで食べに行くように・・・。
今やロンドンに6店舗、更にマンチェスター、エジンバラ、バーミンガムにまで進出して、人気は衰えるところを知りません。
今回はその人気の秘密を調べてみました。
イギリス人が行列するって!?
日本人とは違い、イギリス人って食べ物のために並んで長時間待つとか、あんまり無いんですよね。
ところが、ロックダウン前は、通りがかるとランチタイムも夜もすごい長蛇の列。
なんだこのお店は?と思い実際に行ってみると、なるほど、カッコいいね・・・スタイリッシュ。
そして凄くロンドンっぽさを感じる・・・。
そもそも、このロンドンっぽさってなんだろう?
コンセプトは、ボンベイ(ムンバイ)の「イラニ・カフェ」
「Irani,Cafe,Mumbai」で検索すると出てくる、ムンバイの本物のイラニカフェ。
なるほど、ノスタルジックな雰囲気やインテリアがディシュームっぽい・・・。
こんな雰囲気 → Inside India's 'dying' Irani cafes(動画)
Wikipediaによると、ゾロアスター教のイラン(ペルシャ)人移民たちがムンバイで営むカフェ / 軽食屋さんで、1950年代には350件ほどあったのが、物価の高騰などの影響により今は25件しか残っていないとのこと。
インドでは宗教やカーストの違いのため、食事にもいろいろな規律があるけれど、そんな規律に関係なく、誰もが気軽にお茶したり食べたりできる場所なのだそう。
社会における見えない壁や宗教のタブーを打ち壊した素敵な場所だったんですね・・・。
ありきたりなインドのイメージを打開したい
インドのイギリスとの関係には古くから歴史があり、それだけに昔ながらの古臭いイメージを持っているイギリス人も多い。
“When British people think of India they might think of things like the days of the Raj, palaces, Bollywood, curry houses or cricket. I had the sense that a lot more could be said about India, both food-wise and culture-wise.” ーShamil Thakrar ( Co-founder of Dishoom )
イギリス人の持つインドのイメージ・・・ムガル帝国やイギリス領インド帝国、宮殿、ボリウッド、カレーハウス、クリケット・・・インドって、食べ物にしても文化にしても、そんなありきたりなものだけでは無いと思っていたんだよね。 ーシャミル・タクラー(Co-founder of Dishoom)
そこで4人の共同経営者、いとこ同士のShamilとKavi Thakrar、兄弟のAdarsとAmar Radiaが思い当たったのが「イラニ・カフェ」。
20世紀、植民地時代後のムンバイにおける、多様性・コスモポリタニズム(世界市民主義)・文化の融合を象徴するかのような「イラニ・カフェ」に敬意を払い、滅びゆく素敵な空間を、このコスモポリタン、ロンドンに復活させたのがディシュームということなんですね。
オーナー自身もコスモポリタンな印僑ビジネスマン
画像出典:Business insider
現在、ラディア兄弟はディシュームの経営から退き、シャミルさんとカヴィさん、いとこ同士の2人が引き続き経営に当たっています。
ちなみに、シャミルさんとカヴィさんはイギリスのスーパーには必ず売っているお米のブランド、Tildaの経営者一族出身。
シャミルさんはインド人の両親のもとウガンダで生まれ、まだ赤ちゃんの時に両親とともにイギリスのレスターに移住。
その後ハーバード大学のビジネススクールでMBAを取得し、大手コンサルティング会社のBain&Companyで戦略コンサルタントとして働いたエリートビジネスマン。
その後稼業のTildaでも取締役としてアフリカにも農場を展開するなど、事業拡大に貢献されたそう・・・。
感情を持った人間で構成されたビジネスは、感情こそがエンジンになる。
ビジネスのプロとしての常識であるコストや利益だけではダメだと気付き、従業員や利用客との感情的な関係にフォーカスしたそうです。
それではどんなお店なのか、今回はキングスクロス店とショーディッチ店を紹介します。
独特の世界観も人気の秘密
キングスクロス
ちょっと前まではあまり治安の良くなかったキングスクロスエリア。
再開発後は大物ファッションデザイナーを多数輩出する名門美術大学、セントマーティンズや、グーグルのオフィスなどを取り巻き、オシャレなレストランやセレクトショップなどが集まる感度の高いエリアになりました。
そのセントマーティンズと同じ建物、車両倉庫を改装した巨大な空間に立体的に作られた店内は、他には無い独特な雰囲気。
バーカウンターの前、エントランス右手はソファーやベンチでゆったりできるエリアになっており、赤ちゃん連れのママたちもくつろいでいます。
そしてエントランス左手には2階へ続く階段、バーカウンター裏にも地下へと続く階段が。
地下にもバーエリアがあり、奥にはテーブル席も。
地下に降りると左上に見えるのが地上階バーカウンターの前を通って裏手に向かってぐるっと回る通路。
その通路から地下を見下ろすとこんな感じ。
そして裏手に回ると、テーブル席があり、2階部分の裏側が見える。
斬新でありながらも、高い天井にファンが設置されていたり、木の椅子やテーブル、壁にスローガンがペイントされていたり・・・と、随所にイラニ・カフェ特有のインテリアが。
ショーディッチ
治安が悪かったなんて昔の話。シティーに隣接していることもあり、今や若いバンカーなどが住むクールな高級エリア。
オシャレなレストランやショップがたくさんあります。
コベントガーデンに続く2店舗目のショーディッチ店は入口がちょっと分かりづらい。
通路に一歩入ると右手にベランダと呼ばれるエリアが。
通路を抜けたところ右手にベランダエリアの入り口、左手にはレストラン建物入口があり、中ではつながっていないので、ここでどちらか選びます。
ベランダエリアは冬でも意外と暖かく、日差しもたっぷり入って明るい雰囲気。
店内に入るとやや薄暗く、間接照明やヴィンテージのシャンデリアが照らす落ち着いた雰囲気。
YouTubeでイラニ・カフェの映像をいろいろ見てみると、ディシュームにある床のタイルやついたてなど同じものがあり、細部へのこだわりが感じられます。
コンクリート打ちっぱなしの天井、配管やトタン波板などが配されたインダストリアルな内装に、ヴィンテージの照明や時計、木の調度品を合わせて、クールでありながら温かみのある印象。
ついたての奥には、赤ちゃん用のオムツ交換台もある多目的トイレもちゃんとあります。
店内随所にイラニ・カフェ風の絵や写真、スローガンも。
奥には窓から光の入る明るいエリアもあり、パソコンで仕事をしている人もいました。
どちらのお店もカッコいいけれど、落ち着く雰囲気です。
朝食・ブランチも素敵
ロンドンには美味しいインド料理のレストランがたくさんあるけれど、中心部で週末以外に朝ごはんやブランチ出来るのは、ディシュームくらいのもので、そこも人気のひとつなのでは。
ランチタイムや夕食時は並んでいたりするけれど、平日の朝や昼下がりにはゆったり過ごせるので、赤ちゃん連れのママたちにも人気です。
本場ムンバイのイラニ・カフェは、朝食や軽食メインで24時間オープンしているそうです。
ディシュームの朝食にもムンバイのペルシャ移民風朝食や、イラニ・カフェで食べられるメニューが。
キーマ・ペル・イードゥー(KEEMA PER EEDU)
チキンのキーマ(スパイスで味付けしたひき肉)に半熟黄身の目玉焼き2つとサリ・ポテトクリスプ(細切りのポテトスティック)、ホームメイドのバンズと一緒に。
キーマにはレバーも入っていてコクがあり、ガッツリ系のペルシャ風パワーブレックファスト。
そして、こちらもガッツリ系。
イングリッシュ・ブレックファストならぬ、ビッグ・ボンベイ(THE BIG BOMBAY)
まさに文化の融合。フュージョンなひと皿。
イングリッシュ・ブレックファストと同じラインナップながら、ベイクドビーンズはシナモンやクローブの香りのマサラベイクドビーンズ、スクランブルエッグはイラニ・カフェ定番のアクリというスパイス入りバージョン、パンもトーストではなくムンバイ風のホームメイドバンズ。
ふわふわのバンズは、真ん中で切ってたっぷりバターでグリルしてあり、そのまま食べてもブレックファストサンドイッチにしても美味しい。
スイートウッタパムスタック(SWEET UTTAPAM STACK)と、チョコレートチャイ
甘いウッタパム(インド風お好み焼き)のパンケーキ風。
ふわふわ系ではなく、米と豆の粉を発酵させた生地でどっしり系。
トッピングのシュリカンド(水切りヨーグルトのデザート)の酸味とジャガリー(サトウキビや椰子の未精製の砂糖)シロップの懐かしい甘さの組み合わせが新しい。
他にもベーコンナーンロールや、デーツ&バナナポーリッジ(オートミール)などのオリジナル軽食メニューが人気です。
食事系のカレーの種類は多くないけれど、軽食やバーのオリジナルカクテル、おつまみ系の小皿料理も充実しているので、ティータイムの軽食にも、仕事の後の食事や飲みにも、1日中使えるのも魅力的です。
ロンドンの今を感じられるお店
お店の人も多国籍他民族で、インド人の若者やドレッドロックのお兄さん、赤い髪でタトゥーのお姉さん・・・など自由な雰囲気ながらも、みなフレンドリー。
※お代わりのチャイは無料です!
老若男女問わず1日中、仕事前後やランチにも、ママたちのおしゃべりにも、旅行者にも、便利で居心地の良いお店。
多様性・コスモポリタニズム・文化の融合を体現したロンドンのイラニ・カフェ。
そんなディシュームがロンドンに受け入れられて人気なのも不思議ではないなぁと思った次第です。
こちらもCHECK
-
ロンドンで1番人気のチャイレシピ【Dishoomのチャイ】
「ロンドンで1番美味しいチャイ」と言うのは人それぞれ好みもあると思いますが、「1番人気のチャイ」というのはおそらく間違いないのでは? ロンドンの人気エリアに5店舗を構え、朝から深夜まで営 ...
続きを見る
訪問日:2021年7月10日、2022年2月3日、他
基本情報
お店の基本情報です。ロンドン市内には、 コベントガーデン、キングスクロス、ショーディッチ、ソーホー(カーナビー)、ケンジントンの5箇所。その他マンチェスター、エジンバラ、バーミンガムに店舗があります。
※2022年末、カナリーワーフにも新店舗が加わりました。
メニューの内容は定期的に変わります。
営業時間にも変動がありますので、お店のHP要確認。
・ E-mail hello@dishoom.com
・ 店舗ウェブサイト https://www.dishoom.com/
【King's Cross】キングスクロス
電話番号 | +44(0)2074209321 |
営業時間 | 月-水曜 8:00-23:00 |
木曜・金曜 8:00-0:00 | |
土曜 9:00-0:00 | |
日曜 9:00-23:00 | |
定休日 | 無し(クリスマスなど祝日は要確認) |
住所 | 5 Stable St, London N1C 4AB |
アクセス | 地下鉄キングスクロス駅から徒歩5分、ユーロスター・セントパンクラス駅から徒歩8分 |
【Shoreditch】ショーディッチ
電話番号 | +44(0)2074209324 |
営業時間 | 月-水曜 8:00-23:00 |
木曜・金曜 8:00-0:00 | |
土曜・日曜 9:00-23:00 | |
定休日 | 無し(クリスマスなど祝日は要確認) |
住所 | 7 Boundary St, London E2 7JE |
アクセス | 地下鉄オールドストリート駅から徒歩11分、オーバーグラウンドのショーディッチハイストリート駅から徒歩4分 |
【Covent Garden】コベントガーデン
電話番号 | +44(0)2074209320 |
営業時間 | 月‐木曜 8:00-23:00 |
金曜 8:00-0:00 | |
土曜 9:00-0:00 | |
日曜 9:00-23:00 | |
定休日 | 無し(クリスマスなど祝日は要確認) |
住所 | 12 Upper St Martin's Ln, London WC2H 9FB |
アクセス | 地下鉄レスタースクエア駅から徒歩2分、コベントガーデン駅から徒歩3分 |
【Kensington】ケンジントン
電話番号 | +44(0)2074209325 |
営業時間 | 平日 8:00-23:00 |
土曜・日曜 9:00-23:00 | |
定休日 | 無し(クリスマスなど祝日は要確認) |
住所 | 4 Derry St, London W8 5SE |
アクセス | 地下鉄ハイストリートケンジントンから徒歩2分 |
【Carnaby】カーナビー(ソーホー)
電話番号 | +44(0)2074209322 |
営業時間 | 月-木曜 8:00-23:00 |
金曜 8:00-0:00 | |
土曜 9:00-0:00 | |
日曜 9:00-23:00 | |
定休日 | 無し(クリスマスなど祝日は要確認) |
住所 | 22 Kingly St, Carnaby, London W1B 5QP |
アクセス | 地下鉄オックスフォードサーカス駅から徒歩4分、ピカデリーサーカス駅から徒歩7分 |